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    太陽電池を外装に、エネルギーをまとう建築の可能性

    大野二郎 氏(太陽エネルギーデザイン研究会会長、大野二郎環境建築研究所代表)
    聞き手/小原 隆=省エネNext編集長

     

    デザインに優れた省エネ建築を実現するため、建築の外装材が発電する「建材一体型太陽電池(BIPV=Building Integrated Photovoltaics)が注目されている。BIPVを成長市場と捉える太陽光発電モジュールのメーカーも多い。BIPVの現状と課題について、太陽エネルギーデザイン研究会会長で建築家の大野二郎氏に話を聞いた。

    図1

    大野 二郎 | Jiro Ohno 1948年生まれ。74年に日本大学大学院理工学研究科修了後、日本設計に入社。日本設計環境創造マネジメントセンター(CEDeMa)長を経て、現在は大野二郎環境建築研究所代表。太陽エネルギーデザイン研究会会長(写真:都築 雅人)

     

    — 会長を務める「太陽エネルギーデザイン研究会(SDC)」の活動についてお聞かせください。

    再生可能エネルギーを美しい形で建築や都市に表現するためには、「機能」と「デザイン」の融合が不可欠です。しかし現実には、そのための洗練されたデザインの装置や設備はあまり多くありません。そこで、開発や検討には建築業界だけでなく、関連業界や研究機関との連携が必要だと考えました。 

    SDCは、そうした分野横断的な技術情報の交流の場として、2010年に任意団体としてスタートしました。建築デザインだけでなく再生可能エネルギーを導入したライフスタイルの検証を含めた活動を行なっています。同様の団体としては、2015年に日本建築学会で設立した「建築外装と太陽光発電の融合研究小委員会」や、経済産業省系の太陽光発電技術研究組合(PVTEC)などがあります。 

    デザイン研究会なので、中心となるメンバーは設計者やデザイナーですが、ゼネコンの設備部門の技術者や研究者、近年は、新エネルギービジネスに関心を持つ企業、太陽光発電関連メーカー、外装材メーカー、一部流通系企業まで会員層が広がってきました。会員は、いくつかの分野に対象を絞ったワーキンググループ(WG)でそれぞれに活動を行っています。建築関連では屋根、太陽光PV、太陽熱ST、建築ACのWGがあり、建材一体型太陽電池(BIPV)の研究にも力を注いでいます。 

     

    — BIPVの現状と将来についてお聞かせください。

    屋根の活用に関してはほぼ完成していると私は考えています。日本的な勾配屋根を生かして屋根面に載せた太陽光発電パネルを見て、日本はBIPVの先進国と見る外国人研究者もいるほどです。 

    私が今、注目しているのはファサード、特に開口部やカーテンウオールです。太陽光発電パネルを搭載する屋根面積が限られる都市部では、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)やネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の実現が難しいケースも見受けられます。しかし、ファサードや開口部でBIPVを導入すれば実現可能になる例もあるはずです。 

    ファサードは屋根とは違い、意匠やデザイン性も考えたBIPVが求められますが、屋根面は地上からはよく見えないので、そこに設置するモジュールはデザインより価格優先でも構わないでしょう。普及には、使い分けによるコスト配分も重要だと考えています。 

    自邸「J-House」の2階開口部では、ガラスメーカーとの協働で、窓のガラスと発電ユニットを一体化する日本初の実験施工を行いました。昼間は障子の採光が逆転したような、光格子に見える光と影の意匠が開口部や床などの反射面に現れ、夜間は家があんどんのようにともります。ビルのカーテンウオールに導入すると、夏季の日射遮蔽にも貢献します。

     

    図2

    J-House(東京・新宿区)の外観。太陽光発電、地中温度利用、パッシブソーラー利用の省エネ住宅として計画。設計は1998年10月~2000年3月、構造規模は鉄筋コンクリート+木造混構造、地下1階地上2階、延べ面積は314.01m2(写真:都築 雅人)

     

    図3

    J-Houseの2階開口部のガラスには太陽光発電モジュールを設置。光の格子模様が描き出される(写真:都築 雅人)

     

    屋根、壁、床でエネルギー創出

    建築は古来からシェルターの役割を果たしてきましたが、近代建築はそれをコンクリート、鉄、ガラスの強固な箱としてつくりあげ、大量のエネルギーを投入して快適な空間を実現してきました。私は、地球環境のエネルギーを生かすこれからの建築では、屋根、壁、床は全てエネルギー創出部分と位置付ける必要があると考えています。 

    外装材そのものがエネルギーを創るBIPV、または外装材後付け型のBAPV(Building Attached Photovoltaics)は、ガラスに接着できるシート型太陽電池やフレキシビリティーの高いパネルなどの開発によって、建築材料として広く普及する時代が訪れるはずです。 

    スイスには、デザイン的に優れた創エネ建築を表彰する「ノーマン・フォスター・ソーラーアワード」の制度があり、設立者のノーマン・フォスター氏は、太陽の動きに応じて太陽エネルギーを効率的に受容する建築形態についても発言しています。それをサポートするCAD技術や3Dプリンターなどによる施工技術も進化しています。天動説から地動説に移行したように、建築は太陽エネルギー中心の建築へと、コペルニクス的な転換が求められていると言えるでしょう。 

     

    — BIPV普及の課題をどう考えますか。

    外装材に発電モジュールを組み込むことはそれほど難しくはありません。問題は発電モジュールと建材の寿命の違いです。太陽電池は外装材より短寿命なので、将来、発電ユニットを簡単に交換できる仕組みをあらかじめ設計に組み込む必要があります。ガラスは交換が容易なため、開口部やカーテンウオールはBIPVと好相性と言えますが、点検やメンテナンスの方法などメーカーとの事前の打ち合わせも大切です。 

    20年ほど前にドイツ、スイス、オランダを視察した時、すでに各国のベンチャー企業がデザイン性に優れたBIPVを手がけていました。日本の業界について言えば、ガラスメーカーやカーテンウオールメーカーは、建築への理解が深く、BIPVへの対応も柔軟です。一方、これまでメガソーラー中心だった太陽光発電モジュールメーカーは建築との接点が少ない企業も多く、BIPVの普及には建築デザインへの対応がカギとなります。例えば、創エネ外装工業会のような社団法人も必要になるのではないでしょうか。施工現場では、外装施工と配電工事の両方の職能を併せ持つ、新たな技能職の創設が望まれます。 

    現実的な課題として、40、50歳代のベテラン設計者は設計業務で多忙を極め、欧州のBIPV先進事例の見学や勉強の余裕がありません。その結果、本来、その世代がやるべき建築主への提案がおざなりになりがちなことが気になります。環境意識が高い建築主を説得し、少量でもBIPVの実績を積むことが今は重要だと私は思います。

    図4

    インタビューは大野氏の自邸「J-House」で行った。右が大野氏、左が小原隆・省エネNext編集長(写真:都築 雅人)

     

    (日経 xTECH「省エネNext」公開のウェブ記事を転載)


     

    ZEHを実現するために極度に小さい窓しかない家が作られたりしていることで政府はZEHの基準を見直しました。自宅の電力をまかないながらも、デザイン性、快適さを犠牲にしない。トリナ・ソーラーは、透過性のある両面ガラスモジュールを住宅の建材としてお勧めしています。

     

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