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木と鉄筋コンクリートの混構造ZEB 福島県須賀川土木事務所(前編)

 福島県須賀川土木事務所が、旧事務所の老朽化に伴って、同じ敷地内に混構造2階建ての新事務所を建設した。ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とCLT(直交集成板)の活用に取り組み、東北初のNearly ZEBとなる庁舎を実現させた。

 

 1階が鉄筋コンクリート造、2階が木造という混構造の2階建て。水平に延びるライトシェルフの小庇(ひさし)、縦枠のラインを強調した大開口のサッシが、切り妻屋根を載せた建物の南面ファサードのアクセントとなる。2020年8月に完成した福島県須賀川土木事務所だ。

 

福島県須賀川土木事務所の南東側外観(写真:守山 久子)

 

 寒冷で、地域によっては積雪量も多い東北地方では、多量の太陽光発電が求められるZEBはまだ少ない。そうしたなか須賀川土木事務所は、東北地方の庁舎では初めてBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)で、再生可能エネルギーを含む「一次エネルギー消費量の削減率」が75%以上となるNearly ZEBの評価を得る事例となった。

 

 「須賀川土木事務所は中小規模建築物のモデルケースといえる。運用データを分析し、公共だけでなく民間も含めた今後のZEBの広がりに結びつけていきたい」と福島県土木部営繕課専門電気技師の田中剛氏は話す。

 

 ただ、最初からZEBを目指したわけではなかった。築70年近い旧事務所の建て替えに際し、発注者の県側が当初想定していたのは「可能なら木造2階建てとすること」だった。構造・階数や延べ面積などを与条件に提案を求め、これまでの設計実績などを総合的に評価して、地元の土田建築設計事務所(福島県須賀川市)を設計者に選定した。ZEBやCLTの活用については、その後の設計段階で浮上した。土田建築設計事務所はエンジニアリング事務所のアラップ(東京・千代田)に声をかけ、構造と設備の設計協力を得ながら設計を進めた。

 

1階駐車スペースは断熱外

 

 ZEBに関しては、建築計画と設備計画それぞれの面から消費エネルギー量の削減を図った。「ZEBとするかしないかにかかわらず、中間期にも心地よい空間となる設計を意識した」と土田建築設計事務所社長の飛木佳奈氏は振り返る。

 

 長方形平面の建物は、長辺側が南に正対する配置とした。外皮は屋根、外壁ともに厚さ100mmの遮熱面材付き硬質ウレタンフォームで断熱した。開口には、ビル用のアルミ樹脂複合サッシとLow-E複層ガラスを組み合わせた。

 

 注意を要したのは1階まわりの断熱処理だ。1階に3台分の駐車スペースを設ける条件だったため、当初県が要望した木造2階建てから、1階を鉄筋コンクリート造とする混構造に設計を変更した。「駐車場に必要とされる内装制限などを踏まえると、1階は鉄筋コンクリート造とするのが合理的」(飛木社長)と考えたからだ。

 

 1階部分では、ほぼ開け放しの状態になる駐車場を外部空間とみなして断熱区画から外し、入り口のロビーや書庫などは区画内として断熱した。1階の壁や梁(はり)は躯体(くたい)が外気に接している部分があるため、2階の床に当たる鉄筋コンクリートスラブの上下に断熱材を張るなどして熱橋対策とした。

 

南外観。3台分の駐車スペースを確保した(写真:守山 久子)

 

 建築面では、通風や照明に対する工夫も施した。東西の壁に風の取り入れ口となる窓を設けて開閉できるようにした。外気の気温と湿度を計測し、外気のほうが心地良い時間帯には「自然換気有効」のサインを点灯させる。点灯に気がついた執務者が窓を手動で開けるという仕組みだ。

 

 切り妻屋根の北面にも天窓を設置して、執務時間に開けて暑い空気を排出できるようにした。南面の開口上部には、天井側へ日差しを反射させるライトシェルフを設け、室内の明るさ向上に結び付けている。

 

執務室の窓まわり。開口の上部にライトシェルフを配置した。床に空調の吹き出し口が見える(写真:守山 久子)

 

自然換気有効のサイン。外気の環境が良い時間帯に点灯する(写真:守山 久子)

 

 

 設備面では潜熱顕熱分離空調、タスク・アンビエント照明、地中熱採熱システムなどを採用した。潜熱顕熱分離空調は、温度と湿度をそれぞれ別に制御することで快適性と省エネを図るシステムだ。床吹き出し空調を導入し、居住域を効率的に空調できるようにしている。

 

 南面の屋根に載せた20kWの太陽光発電システムは、発電量の全てを自家消費する。設置や維持管理のコストを勘案した結果、蓄電池は設置していない。外皮性能を表すBPI(PAL*の削減率)は0.51、再生可能エネルギーを含む一次エネルギー消費量の削減率は87%(再生可能エネルギーを除いて同57%)となった。

 

屋上に載せた太陽光発電のパネル(写真:福島県県中建設事務所)

 

 もう1つの特徴が、CLTの活用だ。CLTを見えるようにしたいという県の意向を受けて、仕上げ材を兼ねた天井野地板や間仕切り壁に用いた。CLTを構造材として使う設計では、設けた穴に対して構造計算を要する。途中で変更が生じると再計算が必要となるので、耐力壁などには使用しなかった。「野地板に使ったことで在来工法に比べて現場の高所作業が減り、工事の安全性確保や工期短縮にもつながった」と飛木社長は話す。

 

執務室。天井の野地板と正面の間仕切り壁にCLTを用いた(写真:守山 久子)

 

建築概要

福島県須賀川土木事務所

 

所在地:福島県須賀川市

地域区分:4地域

建物用途:事務所等

構造・階数:鉄筋コンクリート造・木造、地上2階建て

延べ面積:656.46m2

発注者:福島県県中建設事務所

設計者:土田建築設計事務所

設計協力者:アラップ(構造・設備)

施工者:渡辺建設(建築・解体・外構)、ニイダテック(電気・ZEB電気)、大塚設備(機械)、東北エアコン(ZEB機械)

完成:2020年8月


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